起こる前に、
神奈川県愛川町。わんぱく自然農園たむそんの畑には、草が茂っています。代表の田村吾郎(たむら ごろう)さんは、肥料も農薬も使わない自然栽培を、14年間ずっと続けてきた作り手です。種はその畑で採った自家採種。畑で採れた種を、また同じ土に戻していく。そうして年を重ねるほど、作物はその土に慣れていきます。imosukeは2026年の夏から、この畑の野菜を店頭に並べてきました。さつまいもをお預かりするのは、今年からです。
作物の調子が落ちたとき、どうするか。そこに農法の違いがいちばん出る、と田村さんは言います。慣行農法なら化成肥料を与えればすぐ効く。有機なら、元気がなくなったところで手を打てば、時間はかかっても戻せる。けれど自然栽培には、効かせる手立てがありません。できるのは、周りを少し耕すこと、草を敷いて土に還すこと。効く手がないから、気づくのが早くなければならない。14年という年月は、その「気づく力」を育てた時間でもあります。
慣行農法は、起こってから対処する。自然農法は、起こる前に不調に気づくことが大事。野菜が生き生きしている姿が、いちばんおいしいんです。 ― わんぱく自然農園たむそん 田村 吾郎
病名や害虫の名前を覚えて、対処法を覚える。それよりも「作物が元気かどうかを見る力」のほうが、よほど大事だと田村さんは話します。何かの菌を排除しようとしても無理で、整えるべきはバランスのほうだ、と。
たむそんの畑では、種を買わずに自分で採ります。自家採種のいちばんの良さは、その土に慣れてくること。慣れるほどに味が増してくる、と田村さんは言います。種類によって、すぐ土に馴染むもの、なかなか馴染まないもの、最後まで変わらないものがある——そういう違いまで、年を重ねた畑だけが知っています。
草についても同じです。抜いて捨てるのではなく、敷いて土に還す。微生物やミミズが働きやすい状況と、その餌を用意しておく。さつまいもは、もともと肥料の少ない痩せた土のほうがよく育つ作物です。何も足さない畑は、さつまいもにとって理想に近い場所になります。
2026年の秋、はじめてお預かりしたのがあまはづきです。早生の品種で、掘ってすぐでも甘みを感じます。デンプンの構造によって、低温でも甘さが出るといわれている芋で、味にはほんの少し青さが残ります。
低温で甘さが出る品種なら、冷やし焼き芋と相性がいいのではないか。——そう考えて、いま焼いて冷やして、確かめているところです。焼き方も、冷やし方も、品種ごとに合う答えが違います。店頭に並べられると判断できたときに、はじめてお出しします。
同じ自然栽培でも、愛川の菊子自然農園とは畑が違い、育て方の考え方も違います。徳島・鳴門の砂地で育つ吉成農場の芋とは、もっと違う。土が違うと、芋が変わる。その違いを並べて確かめられることが、imosukeのいちばんの面白さだと思っています。